それはいつもと変わらない
ごく普通の1日だった。





「らんちゃ〜ん!」
「あら、やちる」


ピンクの髪色をした、小さな女の子が、スパンと勢い良く、十番隊舎の執務室の扉をスライドして開けた。
その姿を見た、此処の副隊長である松本乱菊は目をパチクリさせる。


「…おい、草鹿。お前は他隊の執務室に入る前の礼儀ってものを知らねーのか…」


その低い声の持ち主は、眉間に深く皺を寄せた、此処十番隊舎の隊長、日番谷冬獅郎である。


「あっ!ひっつん!」
「日番谷隊長だ!」


いつまでこんな会話をすればいいのかと、日番谷はため息をついた。

そんな姿を見かねた乱菊が、話題を変えるようにやちるに声をかける。


「どうしたの?やちる、なんか急いで来たみたいだけど…」
「あっ、今日副隊長会議があるから、一緒に行こうと思ってお迎えに来たの!」
「そう、ありがとう」


ニッコリ笑うやちるの笑顔に、乱菊も柔らかく微笑む。やちるは隣の隊もあってか、
乱菊にとても懐いていた。


「あっ やちる、まだ時間もあることだし、ちょっとお茶していかない?
アンタの好きな金平糖を浮竹隊長から沢山頂いたんだけど、食べきれなくって困ってたの」
「わ〜い!」
「隊長も、朝からずっと机に着いてるんですから、一緒に休憩にしましょうよ♪」
「……お前がしないからだろ…」


日番谷は乱菊を睨むと、再びため息をつき、両肩の凝りをほぐすように回しながら立ち上がり、
乱菊お気に入りのソファーに、日番谷はいつもの定位置に座る。


「じゃっ、あたしお茶煎れてきますね♪」
「いつものな」
「は〜い・」


まるで熟年夫婦のようなやり取りを、お茶うけに出された金平糖を必死に口に頬張りながら
やちるは難しそうに見つめる。
そんなやちるの視線に気づいた日番谷は、鬱陶しそうに余所を向く。


「いつものってなに?」
「うるせーな、松本に聞け」


面倒くさそうな日番谷は、お茶菓子に出された金平糖の横にある甘納豆を乱暴に口に放り込む。
しかし、その姿は何か照れ隠しの様にも見えた。


「はい、お待たせしました
お客様用の湯呑みはやちるのね。火傷しないように少しぬるめに煎れたわ」
「わ〜い!ありがとう!」
「はい、隊長はいつもの濃い昆布茶です」
「すまねーな」
「あっ!これが“いつもの”なんだ!」
「どうしたのよ、やちる」


謎が解けたやちるは、ケラケラと笑い、その姿を不思議そうに乱菊は見つめていた。





そして楽しい(?)休憩時間はあっという間に終わり、副隊長会議が始まる時間が刻々と近づく。



「あら、もうこんな時間。そろそろ副隊長会議が始まるから行きましょうか、やちる」
「うん!今日の議題は“スイカに塩は有りか無しか”についてだよ♪」
「ははは…」
「………頭痛てー…」


やちるの言葉に乱菊は渇いた笑いをした。
日番谷も、こんなくだらない会議の為に、
一応は役に立つ乱菊を手放さなければならないのかと思うと頭痛がした。


湯呑みを片付けた乱菊は、簡単な支度をすると、日番谷の軽く頭を下げる。


「…では、すみませんが隊長、あたしが抜ける間よろしくお願いしますね」
「出来るだけ早く戻って来いよ」
「はい」
「らんちゃ〜ん!早く行こうよ!」


急かすやちるに苦笑いをしながら、乱菊はもう1度頭を下げると、執務室を後にした。
ポツンと執務室に1人になった日番谷。


「やっと静かになった…」


と安堵のため息をついた。





                                  



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